半年間に2回、飛行機が落ちたというニュースが流れたら、あなたは飛行機に乗るのを控えるだろう。
しかし明日飛行機に乗ろうと来年飛行機に乗ろうと、墜落の確率は変わらない。
人は記憶に残る衝撃的な出来事を思い出しやすい。思い出しやすいことは重要だと感じやすくなる。
記憶から呼び出しやすい事は、その頻度を多く見積もってしまうものだ。これを利用可能性ヒューリスティックと呼ぶ。
利用可能性ヒューリスティックの例
高齢者の交通事故報道が立て続けに流れた→高齢者は事故を起こしやすくて危険だ。
株で破産した人の報道を見る→株はギャンブルだから危ない。
ユーチューバーの不祥事をよく見る→ユーチューバーは遊び人ばかり。
大きく感情を揺さぶられたり、実際に体験したことは記憶に残りやすい。記憶に残りやすいということは利用可能性が高まるということ。
利用可能性が高い出来事は、実際以上にそのことが起こりやすいと感じてしまう。
私のほうが頑張ってるのに!で喧嘩する理由
ある夫婦に『夫婦生活における自分の貢献度』を質問する。
正しく自分の貢献度を把握していれば貢献度は100%に近づく。
しかしほとんどの場合は100%を上回る。その理由も利用可能性ヒューリスティックだ。
夫と妻はそれぞれ”自分がした貢献”はすべて知っていて思い出しやすい。
しかし相手がやってくれた貢献はほんの一部しか見えない。なので思い出しにくくなる。
自分の貢献の方が思い出しやすいため、貢献度を多く見積もってしまうのだ。
これは夫婦生活に限らず、あらゆるチームやプロジェクトメンバーでも同様。
報酬を受け取るとき、「自分は正当に評価されていない」と感じる人が多いだろう。
思い出しやすさは自己評価を変える
自分が散財したエピソードを15個上げてください。
多分最初の2、3個はすぐに思い出せるだろう。しかし9、10個目はどうだろう?
おそらく思い出すのにすごく苦労すると思う。しかし何とかして15個の散財エピソードを思いついたとする。
すると、「自分は散財しない。倹約する方だ」というセルフイメージが強化される。
同じ質問を5個上げてください。と言われた場合は思い出すのに苦労しないはずだ。
散財したエピソードを5つ上げてください。と言われた方は、15個思い出させた場合より「自分は浪費家だ」という思いが強くなる。
簡単に思い出せるという感覚は、頑張ってたくさん思い出すよりもセルフイメージの強化に効果的なのだ。
他の質問でも効果は同様だ。例えば
- 自転車の利用頻度を訊ねる質問では、具体例をたくさん思い出してもらうときのほうが、少ないときより、頻度を過小評価した。
- 自分の選択について、その根拠を多く挙げさせるときのほうが、少ないときより、選択の正しさに自信が持てなくなる。
- 事故の回避について、そのための方法を多く挙げさせるときのほうが、少ないときより、事故は避けられたはずだと思えなくなる。
- ある車の長所を多く挙げるよう指示すると、その車にさほど魅力を感じなくなる。
出典:ファスト&スロー (上)12章より
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